twice up vol.17
聖夜
少し前の話になるが、新聞にこんな記事が出ていた。
米ユタ州ソルトレークシティの航空局が、同市の上空を通過する小型飛行機の最低高度を定めた条例の修正案を市議会に提出した。「サンタクロースのそりは適用外」とした特別条項の削除を目指すもので、航空局は「サンタへの嫌がらせではない」と説明しているが、「子どもの夢を奪う」などと論議を呼んでいる。
この条例は、小型機の最低高度を2000フィート(約600メートル)と定め、続く条項で「クリスマスイブにトナカイの引く荷物だけは例外」と明文化。上空から子どもたちにプレゼントを届けるサンタクロースへの「配慮」として1985年に盛り込まれた。
こうした項目があると、規則自体がいいかげんなものと受け取られる恐れがあるため、定期的な見直しに合わせて修正することに決めた、とある。(朝日新聞2004年9月15日夕刊)
残念ながら後追い記事は出なかったので、その後どうなったのかはわからないが、こういうしゃれっ気のある条項を削除するなんて野暮もいいところだ。おおかたの予測通り否決されたと信じたい。ソルトレークシティの子どもたちは、この条例を誇りに思うようなおとなになるだろう。
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うちにサンタクロースからのプレゼントが届いていたのはいつ頃までだっただろうか。
クリスマスの朝、目が覚めると枕元にリボンをかけた包みが置かれていた覚えはあるが、それがいつまで続いたのか定かではない。ただ、サンタさんはどこから入って来るのだろうと、ふしぎに思っていた時期があったことはたしかだ。子供時代に住んでいた家は平均的な日本建築で、暖炉や煙突はない。
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こんな話がある。
その夫婦には女の子と男の子の二人の子どもがいる。両親ともに外で働いていることもあり、女の子はたいそうしっかり者で、弟の面倒をよく見る。そんな彼女を夫婦はときどき「小さいママ」と呼んだ。
ある年、一家はお父さんの転勤で引っ越すことになった。それまでは一軒家に住んでいたが、新しい家は会社が借り上げているマンションに決まった。女の子は小学一年生、男の子は幼稚園の年長組になっていた。
一軒家に比べて手狭ではあるが、マンションは鍵一本で事足りる。短時間なら子どもたちに留守番をさせても安心だと、夫婦は喜んだ。
その年のクリスマスイヴ。一家はごちそうとケーキを囲んでささやかなパーティをし、子どもたちはいつもより少し遅めの時間にベッドに入った。夫婦はホットワインを飲みながら子どもたちが寝静まるのを待った。あとでこっそりプレゼントを置きに行く予定だった。
小一時間ほどたって、子どもたちの様子を見に行ったお父さんは、玄関の鍵が開いたままになっていることに気がついた。最後に帰ってきたのはじぶんだ。うるさい妻に気づかれないよう彼はそっと鍵をかけた。子どもたちはまだ寝付いていないようだった。
次に様子を見に行ったお母さんは、玄関の鍵が開いたままになっていることに気がついた。きっと夫がかけ忘れたのだ。彼女は鍵をかけ、居間に引き返して夫を責めた。
不注意は認めるが、さっきたしかに鍵をかけたのだと夫は言う。
じゃあどうして開いてるわけ?
声をひそめた言い争いのなか、夫婦はひそやかな足音を聞きつけた。
泥棒? まさか。細めに開けたドアの向こうに夫婦が見たのは、足音を忍ばせて玄関に向かう娘の姿だった。夫婦は顔を見合わせ、そしてそっとドアを閉めた。
玄関に鍵がかかっていてはサンタさんが入って来られない――心配で眠れないという弟のために、小さいママは玄関を見張っていたのだった。
*
誰にもクリスマスの思い出はある。
どうぞすてきな夜を。
メリー・クリスマス。
(2004.12.10 H.S.)
ヨーロッパで古くから愛されている寒い季節の温かい飲み物ホットワインは、風邪に効く妙薬としても知られている。赤ワインを温め、軽くアルコールを飛ばしてレモンやオレンジのスライス、蜂蜜や砂糖、そしてシナモン(お好みでオレンジやクローブなど)を入れて作るのが一般的である。【参考:サッポロのワイン/ワインの知識箱】
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